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トッケイについての雑感

トッケイ飼育におけるワンポント

真景 大守宮

ヌマヨコクビガメの学名にまつわる雑記




守宮の帝王学

〜トッケイヤモリ雑感〜



トッケイの飼育や生態について、
こんなサイトで書くのもなんだか憚られる気がするのですが、
今現在、飼育において関心のある事について少し述べようかと思います。
トッケイの基本データや飼育方法などは、
書籍又は他所様の優良サイトで御覧下さい。

トッケイとは

トッケイとは84属670種に及ぶ
トカゲ亜目ヤモリ科の総大将ともいうべきヤモリで、
棲息域においてもっとも人間と上手に付き合っている爬虫類です。
我が国におけるニホンヤモリの如く、
人家の灯りに寄せられる虫を狙って現れるので、
現地では馴染み深い生き物なのでしょう。

伝染病を媒介するマラリア蚊を食す、という事で
「トッケイが鳴く街ほどマラリアが少ない」とまで云われるほど
大切に扱われている所もあると聞きます。

また、ヒンドゥーの神話によれば、その昔、破壊と創造の神シヴァが、
このヤモリを創り給いし時、蝿や蚊を駆除する力を与え、
かつ未来を占う霊力を授けたという事です。
この、トッケイの鳴き声が何回続くかで幸運を占う、という習俗は
インドから東南アジアまでトッケイの棲息域そのままに広く分布しており、
実益面でも精神面でも如何にトッケイが人間と深い関わりをもってきたのかが伺えます。

因みにこの鳴き声占い、何時・何処でどんな風に鳴いたか、
つまりT・P・Oが重要だそうで、1回なら一ヶ月以内に開運、
2回なら42日以内に開運、3回なら3日以内に開運という具合になっているそうです。
なお連続15回鳴いたら幽閉(!)の身になる、
16回続けて鳴くと成功の兆し、というのもあるのだとか。
また「トッケイが鳴いた時に産まれた子は幸せになれる」というのもあるようです。
アジアの占いらしく極めて詳細に法則が定められているようですが、
やはりシヴァ神の申し子をケージに閉じ込めて飼う、という罰当たりな行為の為か、
飼育している私には何回聞いても開運の兆しはありません・・・。

地域個体差はどうなのか?

ご存知の通り、トッケイの分布域はたいへん広いです。
西はインドから東はニューギニアのアルー諸島まで、
南・東南アジアをほぼコンプリートするかの如き広大な範囲を誇ります。
これがどのぐらいの凄い事なのか、判り易いように地図にしてみました。

地図だけでも14ヶ国(もっとも、トッケイに国境はないのですが)に渡ろう分布域。
これほどの広い棲息域の確保の秘訣の一つには、
やはり彼等が人間とある程度の繋がりをもっている事が大きいと思います。

これは憶測なんですが、棲息域は海に浮かぶ島国ばかりですが、
もともと棲息していない地域でも、
人間が運搬する木材などに紛れ込んだ幾匹かが、
帰化したりして進出したりするケースもあるのではないでしょうか。

なお、ネパールやブータン、台湾はともかく、
スリランカには居そうなのですが、今の所そういった話は聞きません。
もっとも、インドのどの辺りに生息しているのか判らないので
これまた憶測に過ぎないのですが、
スリランカにペラヘラ祭り見物なんかで訪れた方で、
闇夜に彼等の咆哮を聞いた方は是非教えて下さい。

さて、生き物がある程度、変化のある地域をまたがって棲息していると、
長い歳月をかけて、よりその地域の環境に適応する為に身体や生態に変異が生じます。
俗に言う地域変異というやつなのですが、
トッケイの場合もそれがあるらしく、いくつかの情報は流れています。

タイ便で入荷した♂個体  2000.08

これは[タイ便]という名で日本に入ってきた個体(♂)なのですが、
典型的なトッケイだと思います。
これを基本として、云われているトッケイの地域変異個体とはどういうものなのか
挙げていきたいと思います。
なお、この比較はペットルートに流れているトッケイ及びその噂に限定されます。
しかも「○○産」という名で入荷した(インボイス)、というのを参考にしてますので、
学術的な根拠は甚だ脆弱極まりなく、アクマでご参考までにお願いします。
正確な情報をお持ちの方は是非教えて下さると幸いです。

中国南部に棲息するもの
中国南部に棲息するタイプのトッケイは全体的に白っぽくなるようです。
以前、雑誌でその写真を見たのですが、白というより灰色がかっている感じでした。
ただ、これは全てのトッケイに云えるのですが、
トッケイはカメレオンほど健著ではないものの、
体調や精神的コンディションによって体色の変化が可能です。
従って、撮影された個体がベストな(本来の)発色をしているのかどうかは判り辛く、
写真一枚や二枚で判断出来かねない、というのがあります。

そこで私も飼育下において、くまなく観察してやろうと思い、
中国便でトッケイが入ってくる、というのでお願いしていたのですが、
入ってきたのはなんと、酒に漬けられ漢方薬と化した瓶詰めトッケイでしたとさ。
ぎゃふん。

因みに、中国ではトッケイは蛤?(変換出来ません…「虫+介」)と書き、ゴウカイと読み
これは雄は蛤「ゴウ」と鳴き、
雌が(虫+介)「キヤイ」と鳴くのに由来するのだそうで、
実際、そんな生態を中国産トッケイが有するのか、
私は確かめた事がないのですが、多分事実ではないと思います。
また、このコウカイなる中国トッケイは、甚だ淫靡な性質で、
雌雄が常に同伴し、いったん情事に至れば壁から落ちようが、
人に拾われようが、引き離そうとしても死ぬまで離れない。
然るに、この雌雄を房中(男女の交わり)の薬に用いれば効果がある、と
いうのですが、
これもまた俗信の域を出ないと思われます。
例外もあるでしょうが、だいたいの動物の交尾というのは至って淡泊で、
汗だくで必死になってアレコレと四十八手裏表を考案して
長いこと繋がっているのは人間ぐらいのものでありましょう。

もっとも薬に用いられたのは本当で、
私も漢方薬屋で、腹をさばかれて竹串で凧のように磔にされた
トッケイの干物を見た事があります。
残念ながら、乾燥による変色で中国産のモノかどうか判別出来ませんでしたが、
どうやら肺病の薬として効益があった(ある)そうです。
また、これは何処の国だったか失念しましたが、
薬草を入れた樽の中にゴキブリを入れ、
その薬草を食べてそだったゴキブリをトッケイに食わせて漢方にする、
という話を聞いた事があります。
ガットローディングとでも云うのでしょうか、真偽の程は定かではありませんが、
なんだか、まんざら嘘でもなさそうな気もします。

実際、毎年トッケイは膨大な数が漢方の材料として消費されており、
これにペットルートに流れる分を加えたら、
年間に捕獲される数は凄いものになるでしょう。
この忌忌しき事実と知った際、
私などは数年もしたらトッケイは絶滅危惧種になって
サイテス入りを果すかも知れない!とか真剣に悩んだのですが
知り合いからは鼻で笑われました。

マレーシアに棲息するもの
マレーシアに棲息するタイプは普通のトッケイより巨大化するそうです。
マレーシアに棲むトッケイ全てが、
成長するとこのサイズに達するのかは判りませんが、
[マレー便]として入荷した個体は確かに大きかったです。
飼育してみると、長さも然る事ながら、どっしりとした肉厚な体躯が迫力満点、
普通のトッケイがビブロンゲッコウに見えてくるぐらいでした。

痛恨にも突然死させてしまい、
詳しいデータもマシントラブルにより消えてしまったので
具体的数値をもってその巨躯を表す事は叶わないのですが、
体重も普通の2〜3倍はあったと思います。
ケージの壁を走る時の音も重低音が効いていて、ドドドド…と響くぐらいでした。
当然、その顎の威力も凄まじく、
誤まって小指を噛まれたのですが、流血と激痛で指の先がもげるかと思いました。

そもそも、ヤモリを意味する学名のゲッコ(Gekko)は、
マレー地方での呼称が欧州に伝わり広まったそうなので、
そう考えると、ヤモリ族670余の眷属をその咆哮でまとめあげるトッケイの中でも、
マレーシアのトッケイは帝王といっても良いでありましょう。

このタイプ、すなわちマレー便のトッケイは滅多と入荷がないらしく、
もう一度詳しい観察記録を取ろうと思っているのですが果せてません。
ペアで飼っていたのですが、雌はそれほど大きくなく、
単純に年齢による成長具合によるものなのか、
雌雄で体格の差が顕著なのか、判りません。
もう一度、小指を噛まれても良いので飼育してみたいです。

フィリピンに棲息するもの
フィリピンに棲息するタイプは全体的に小さい、と言われています。
が、私は写真を含め見る機会に恵まれず、確証を得られずにいます。
島に棲む生き物は矮小化する、というのが多くの生物に当てはまりますので、
やはりフィリピンに棲むトッケイも、その身体を小さくする事によって
環境に適応していったのでしょうか。

フィリピンのトッケイが入荷した、という話を聞いた事がないのですが、
フィリピンは生き物(野生動物)の輸出を禁じているのでしょうか?
それとも私が知らないだけで前から入荷はあるのでしょうか。
何方かご存知でしたらお教え下さい。

インドに棲息するもの
これは一度だけ耳にした事があるのですが、
インド(は広いのですが、どこら辺りに棲息しているのかも知りません)のタイプは
小さいとも、灰色がかっているのだとも言われており、
実際のところ、どんな感じであるのかすら私は掴めておりません。

西隣のパキスタン便に混じって入荷した事がある、とだけ聞いた事があるので、
わりかし西側寄りにまで棲息しているのでしょうか。
しかし、多少のサイズや体色の違いは地域変異よりも
個体差で片付いてしまう場合が多いので、
噂の真偽は判りかねるのですが、それゆえに実際に一目見てみたいタイプです。

タイ・インドネシアに棲息するもの
今現在、もっとも多く入荷するのはタイ便とインドネシア便のトッケイではないでしょうか。
とはいっても、タイ便は周辺諸国からかき集めたトッケイを
タイから出荷する意味も含めての[タイ便]で、
必ずしもタイ便=タイに棲息するトッケイという訳ではないそうです。

またインドネシア便に至っても、
あの広域に渡って島々が拡散しているインドネシアの
何処で採集されたトッケイか判りませんので、これまた安直に決めかねます。

ですが、この2つのタイプは見た目もほぼ同じで、
取り立てての相違点がないような気がします。
そんな事書いておいて、実は決定的に違う間柄だったりしたら面目ないのですが、
若干、インドネシア産の方が色が薄いかな…?というぐらいです。
色に関しては同じ便でも色々あって、薄く茶色かかっているのもあれば、
美しく青が発色しているものもあってマチマチですので、
これで判断するのは利口ではない気がします。

左からタイ便♀、インドネシア便♀、インドネシア便♂

左の黄ばんでいるのはタイ便で入荷したトッケイ(♀)です。
その隣りの2匹がインドネシア便で入荷したトッケイ(左から♀・♂)です。
こうして見れば色彩の差異があるように見えますが、
タイ便で入荷したものには最初の画像のような綺麗なブルーのも居り、
おそらくこれは個体差の範疇で収まるのではないか、と見ています。
その他の地域に棲息するもの
その他の地域に棲息するタイプについては
依然、情報を収集中でして、良く判っておりません。
「バリ島のトッケイは大きい」とか耳にしたりするのですが、
他所でトッケイを見た事がない人の証言だったりするので
信憑性(とか云ったら噂を参考にしている時点で本文なんてトンデモ本並なのですが)に欠けます。
ここはやはり私本人がバリへ赴いて調べる必要性があるのですが、
行ったら最期、南国の開放感に当てられて戻ってこれそうにありません。
爆弾で吹っ飛ぶかも知れません。

このように様々な違いが存在し、
興味深いトッケイの地域変異ですが、
実際に確認出来たのはほんの僅かです。
地域バリエーションについて、
何かご存知の方はよろしければ是非ご教授下さいませ。



繁殖について

トッケイは飼育されている方も多く、昔から入荷しているので
必然的に繁殖に成功された方も沢山おられると思います。
ですが、実際にその繁殖データとなると、なかなか出てこない気がします。
「トッケイなんて簡単だよ」という声も聞かれますが、
確かに必要な環境や技量は幅が効くとおもいますが、
狙って繁殖させる、となると、そこまで確立していないのではないでしょうか。
ヒョウモントカゲモドキまでは行かずとも、
せめてその十分の一ぐらいは
情報としてあってもいいんじゃないかな、と思う日々です。

私も実際、繁殖に成功しましたが、残念ながら狙ってまでは至ってません。
雌雄ペアを同居させ、良好な飼育環境を維持していると、何時かはするだろう、
・・・ぐらいの発想から脱却出来ずにいます。
繁殖に至るキッカケを彼等に与える刺激はなんなのか?
ヤモリを沢山飼育されてきた方なら、
他種の応用でなんとかなりそうな感じがするのですが、
それに無い私には試行錯誤が続いてます。

一説には熱帯に棲む彼等に必要なのは
雨季と乾季の環境の変化だと云います。
一定期間は多湿な環境にし、
それからやや乾燥気味な環境を作ってやると良いらしいです。

参考までに赤道直下のバリ島では4月から9月までが乾季で、
10月から3月までが雨季にあたります。
もちろん、アフリカのサバンナのような極端な差はなく、
雨季といっても一日に何度かスコールがやってくる程度なのですが、
この辺りの変化をどうやってケージ内で再現出来るか、
やはり湿度管理が重要なキーになっているのでしょうか。

またトッケイの雌は貯精出来るのだそうです。
私が確認したのではありませんが、
一度交尾をして産卵しても、体内に蓄えた雄の精子を小出し(?)にして
交尾なしで産むことが出来るらしいです。
トッケイが交尾から産卵に至るまでの期間は判りませんが、
私の所では同じ雌が同じ環境で産卵し、45日前後で再び産卵した事があります。
また産卵から孵化までの期間は温度にも拠ると思いますが83日間でした。

また繁殖に関する疑問はもう一つあって、
先ほど述
べた[飼育下におけるキッカケ作り]と少し関係するのですが、
異なった地域の個体同士でも交配は可能か?という点です。

フィリピン産とマレーシア産のように、
一目瞭然に体格からして違うのはともかくとして、
タイ便とインドネシア便のように棲息域の距離は離れているけれど、
見た目は変わらない、という場合においてはどうなのか、
恐らくは交配可能だと思ったのですが、
人に意見を聞いたりすると答えがマチマチなので、
確信を得られませんでした。

なぜなら、あれだけの広域分布になってきますと、
大方では同じ気候や環境でしょうが、
地域変異を生み出すような差異はあるでしょうから、
分布地域によって、繁殖のキッカケは多少なりとも異なってくるのでは?
と思ったからです。

そこで実際にタイ便として入ってきた個体の雄と、
インドネシア便として入ってきた雌をペアにして、
実験的に暫く同居させてみると、あっさり卵を産んでくれました。

もっとも、この雌はインドネシア便として入荷した際、
店で沢山のトッケイがいる中から抜いてきたので
この間交尾が行われ、それを貯精していたとも考えられます。
まぁ入手したのが6月上旬で産卵したのが10月上旬ですから、
どこまで体内に精子を溜めて置けるのか判らないのですが・・・。

ともあれ、これがその卵です。
無事孵化して成長すると…多分あんまり変わらないと思うのですが、
それでもどんな感じになるのか楽しみです。
ですが、ヤモリ飼育の熟練者に言わせると、
遺伝子レベルでは差異はあるだろうが、大差はないだろうとのことです。
確かにヒョウモントカゲモドキなどは各地域変異を長い年月をかけて
散々ゴチャ混ぜにして攪拌して練り込まれてブリードされているので、
そう考えれば地域の垣根は越えがたいものではないのかも知れません。


そしてその卵が孵化したベビーです。
一見して全然変わりませんね、やっぱり。
因みに、色が黒ずんでいるのはベビー色で、こういう仕様です。
決して体調が悪い訳ではありません。

余談になりますが、
トッケイの色彩変異としてはアルビノ、リューシスティック、
キャリコ、アザンティック等が知られておりますが、
野生動物はなんでもノーマル種が一番綺麗という持論を有す私としては、
あれらは[汚い]の一言に尽きます。
トッケイは、そのままでも極彩色の美しいヤモリなのですから、
あの妖艶な青を殺してまで品種を固定する値打ちがあるのかどうか甚だ疑問です。

しかし、少しやってみたいのが、
青みの強い個体同士の選別交配です。
トッケイは色彩も個体差が強いのですが、
青みの強い、また朱色の斑点が濃い個体を選別して交配を繰り返したら、
ターコイズのような美しい青地に、鮮やかな紅を散らしたような、
それはそれは見事なトッケイが誕生するのではないでしょうか。

ヒョウモントカゲモドキの[ハイイエロー]という品種がありますが、
あれはやはり黄色地の強いものを選別交配していった結果でしょうから、
同じ要領で出来ないものかと、実に安直な発想なのですが、思っています。

終わりに

トッケイはポピュラーな存在でありながら判らない事も多く、
海外では研究されているらしいのですが、
私は研究者やマニアや業者さんではないので、
小さいアンテナに引っかかる断片的な情報を頼りに色々試している状況です。
従って誤まりも多くあると思いますが、(というか殆ど推測の域を出ないのですが)
その中で、少しずつ、僅かの確信を得ていく過程はとても興味深いものがあります。
とはいえ、まだまだ知らない点、不明瞭な点ばかりですので、
トッケイに関する耳よりな情報をお持ちの方は是非、御教授下さいませ。
何も出ませんが、紅茶ぐらいなら淹れます。

最後に、トッケイは非の打ち所のない素晴らしいヤモリです。
破壊神の加護を受けし、このヤモリの帝王に
魅了される飼育者が一人でも多く増える事を願ってやみません。




トッケイの飼育における失敗回避案

トッケイヤモリを飼育する上で留意すべき事柄を幾つか挙げてみる事にする。
なお、基本的なトッケイのデータ、飼育概論などは、書籍、爬虫類サイトを参照のこと。



其の一:多頭飼育をするなら♂は1匹
トッケイは縄張りを持つヤモリである。
♂同士はかなり激しく争い、追い駆け合い、取っ組み合い、
更には相手の尾を噛み、下手をすると肢まで食いちぎる死闘を繰り広げる。
従って、自然下とは違い、あからじめ限られたスペースしかない飼育下においては
♂は一頭のみとし、あとは♀を加える形でハレムを組んでいくのがトラブル回避に繋がる。
雌雄の判別は成熟したアダルト個体なら明瞭であるが、
馴れないうちは信頼出来るショップに観てもらうのがベターであろう。
その際、雌雄の違いと判別方法などを聞いておくとタメになって良い。
もしも、♂が二頭いた場合は、速やかに別ゲージを用意し、
余計な縄張り争いを避けること。

なおトッケイの鳴き声はこの縄張り意識にも関係する社会的行動であるらしく、
争いが発生した場合、勝った側が[勝利宣言]的に行う場合がある。
もしかすると♀の奪い合い、転じて繁殖行動とも関係があるかも知れないが、
現在のところ憶測の域を出ない。



其の二:湿度には常に留意
トッケイヤモリは乾燥した環境であると、間違いなく脱皮不全を起こす。
特に冬場は温度ばかりに気がいってしまいがちで非常に危険である。
この場合に怖いのが、指の先にある[吸盤(ではないのだが便宜上)]の古い皮が剥がれず壊死し、
壁に張り付けなくなる事である。
こうなるとその個体は落ち付いた場所に移動出来ず、
常に床にいる状態になるのでストレスや低温などで状態が悪化するケースが多い。

こうした事態を防ぐには霧吹きなどによるスプレーを意識的に増やしたり、
[足吹きマット]と称される湿った場所を一部に設けてやる必要がある。
足吹きマットは浅く拾いタッパー等に湿らせた水苔を敷き詰めケージ内に設置する。
この上をトッケイが歩くと指の過乾燥を防ぎ、汚れも落とすので脱皮不全予防に効果的であり、
また蒸発する水分でケージ全体の湿度の調整にもなるので、必須であると思われる。
ただし、その上の排泄物が落ちたりして汚れるのも早いので、
ダニなどが湧かないように早めに交換する事が肝要。
水苔が不経済ならキッチンペーパーが安価で良い。
但しより蒸発し易いのでマメに水を補給する事。


当然の事ながら環境多湿であっても、蒸れるのは他の生き物同様、禁忌である。



其の三:ケージについて
トッケイヤモリを飼育する際、出来るだけ大きいケージを用いる。
少なくとも60cm標準水槽を立てにしたぐらいのスペースが欲しい。
多頭飼育であるなら高さ90cmが理想である。
広いスペースを与える事は飼育の大前提であるので、
許す限りの場所を割いてやりたい。
彼等もそれに答えてくれるはずである。


一番手軽であるのが、大型の衣装ケースを立てにして、
通気孔を空けて、メンテナンスし易いように加工したものであろう。
これであると低コストであり、また衣装ケース特有の不透明さが、
トッケイにとっても落ち付く環境要素となるようだ。
欠点としては逆に観察しにくくなるという事と、
加工の仕方によっては脱走を許し易くなるという点か。
しかし、これで繁殖をしている例もあるので誤まった選択ではないと思われる。

爬虫類専用のケージでも問題はないかも知れないが、以外と使い難いものが多く、
全面ガラス張りなので馴れない内はストレスになる個体もいる。
背面や側面を新聞紙で覆うなど工夫をして対処したい。
贅沢かも知れないが、室内温室という手もあるし、
通気性の良い木材やメッシュを使ってケージを自作するのも良い。


また、どんなケージにせよ、中には必ずシェルターとなる物を入れ、
先述した足吹きマットを設けること。
シェルターの材料はトッケイが姿を隠せる物で、薬物の危険がない限り、
特に何を用いても構わない。
ケージが大きい場合は小さなスノコを立てかけてやるのも良い。
但し、もし産卵した場合、トッケイは壁やシェルターの側面に産み付けるので、
壁に産んだ場合はともかく、シェルターであった場合は卵を隔離出来るような、
つまりは切り取れる素材の物が便利ではある。

床材は基本的に不用であるが、レイアウト次第で適当な物を用いると良い。
新聞紙などが経済的で楽である。



其の四:餌について
トッケイヤモリの食幅は広く、特に異臭などがしない限り、
自分より小さくて動きのあるものであると大抵食べていると思われる。
これは悪い例であるが、馴れてくると、ピンセットで動かしたドックフードや
観賞魚用の乾燥エビにまで食い付く。

飼育下では主にコオロギやGミルワーム、ピンクマウスや雛ウズラを与える場合が多いが、
たまに採集したバッタ類やセミ類、チョウ・ガ類などには好反応を示す事から、
コオロギなどの食いが悪くなった場合には有効であると思われる。
良く云われるように明かに農薬散布されている場所からの餌虫採集は避ける事。

ゴキブリの類いも嗜好性は高いと聞くが、
ペットルートに流れているものでもないかぎり、
家庭に出現するものは殺虫剤の影響もあるので避けるべきであろう。

ピンクマウスやヒナウズラに餌付けが成功すると、
栄養価が格段に違うので、生育には十分な栄養が得られるが、
単食にすると肥満や、転じて通風などの疾患が認められる場合があり、
どのような餌にしても単食は避けてバリエーションを増やした方が理想。
但し、餌付かない場合でもコオロギだけで状態良く飼育している例が多いので、
特に落胆せずとも良い。
コオロギは小さくて素早いヨーロッパイエコオロギよりも、
大きくてゆっくりしたフタホシコオロギの方を好む気がする。


サプリメントに関しては添加した方が無難。
特に♀の場合は繁殖の事もあるのでCaは必要と思われる。
餌を問題なく食べていれば、特にサプリメントを嫌うという話は聞かない。
また餌となる昆虫にも野菜などを与えておいて、
間接的にビタミンや水分などを補給出来るようにするのが理想的。


なお、飼育開始直後の給餌は、
ケージ内にシェルターを設けてトッケイが落ち付いてからにする。
落ち付かせてもいないのに餌を与えて食べないのは当たり前で、
「拒食した」とか騒がないこと。

ピンセットで与える場合は、シェルターの入り口付近で、
餌をゆっくり出し入れして誘ってやると食い付く場合が多い。
雛ウズラ、ピンクマウスの場合は、頭の皮を剥くか、軽く飾り包丁を入れ、
体液を出してやると臭いに反応しやすくなる。
またコオロギを潰し体液をなすり付けるのも好成績である。
多頭飼育の場合は力関係が形成されるようで強い個体が餌を独占する事があるので、
給餌の際によく観察をし、餌の取れない個体へのフォローをする事。

トッケイの仕上げには給餌が大きいウェイトを占めるので、
その成功には観察と考察が重要であると思われる。



其の五:拒食について
トッケイが餌を食わない理由は主に環境の変化による場合が多いのであるが、
元来、拒食を招く要因というのは沢山あって、
それらが複合的にからまっている場合も多いので、
一概にこれをこうすれば大丈夫、という法則はない。

それまで十分に栄養を摂って体力的にも問題ない個体であれば、
水分補給を怠らない限り、
多少の期間の餌を食べない状態は危険ではないし、
飼育者側が慌ててむやみに環境を変えたりすると、
かえって本格的な拒食を招いたりするケースもある。
従って、餌を食べなくなった場合には、
[(体力はあるけど)食いたくない]のか、
[(病気や怪我などで)食えない]のか、
[(ストレス等で)食わない]のか等の見極めが肝要である。

まずはトッケイの視野に立って、飼育方法・飼育環境の総チェックをし、
何か要因となるものを探ってみる。
無論、この判断には、日々のトッケイとの付き合い(世話・観察)が
欠かせない事は言うまでもない。
気が付いたのであれば速やかに改善する。

もし、体色が黒ずんで尾や脇腹がやせ衰えるなど、
本格的な拒食に陥ってしまった場合の立て直しは非常に困難で、
ピンクマウスの強制給餌、希釈ポカリスエット液の投与など
それなりの手だても無い事もないが、
やはりそのまま死んでしまう事が多く、
手遅れにならない前に先手を打つ事がなにより肝要だと云える。



其の六:日常の世話
日常の世話は給餌、環境管理、掃除の3つである。
3つしかないのだからサボらず、きっちりこなしたい。
給餌は先述の通りであるが、環境管理とは温度・湿度のキープにある。
またダニ発生などの悪環境で起り得るトラブルのチェックも含まれる。
どのような環境要因が揃った時が一番調子良いのか見極めておくと、
飼育環境の目安になって良い。

掃除は主に床に落とす糞の掃除だが、
壁守宮はトッケイに限らず壁面を糞尿で汚すので、
美観を損ねると思うなら、濡れたティッシュなどで吹き取る。
掃除作業中は脱走されやすいので、注意が必要である。

真景 大守宮

〜トッケイヤモリ その真価〜



軽視されやすいトッケイヤモリだが、
一部で「飼い込めば見事に育つ」とも記される事が多い。
だが、そうした見事な個体を見る機会は少ないように思える。
トッケイヤモリは確かに安価であるが、
じっくり飼い込んでこそ、その真価を発揮する。
その証明を御覧戴きたい。

なお、これらの素晴らしい個体を飼育されている飼育者の方々に
深い敬意と感謝の念を表します。

大守宮図絵.壱

大守宮図絵.弐

【トッケイさん】

【DATA】
身長
:25cm
体重:138g
性別:♂
産地
:不明
飼育開始:1999年7月
主餌
:フタホシコオロギ・Gミルワーム・ピンクマウス(冷)・ヒナウズラ(冷)など
ケージ:室内温室放し飼い

トッケイは総じて気性が荒いとされている。
とは云っても、トッケイの方から好んで攻撃してくる訳ではなく、
人間が触れようとした場合における自衛手段としての排撃行為であるのだが、
この[触れない]という点が飼育種としてマイナス扱いされる要因でもあるようだ。

が、

このトッケイは触れるのである。
それも結構大胆に抱き上げても大丈夫なのだ。
もっとも下からすくうように固定してやらないと落ち付かないようだが、
それにしたって、ハンドリング出来るトッケイなんてそういない。



この通り、指にも止まる。前肢の配置がペトリという感じでグー。

この通り、既成のトッケイ観を破壊するかの如き馴れ具合。
なお、これは照明の為に瞳が細くなっているが、
これが通常の黒い丸瞳であったら、その愛らしさは群を抜くであろうと思われる。
[亜細亜の壁虎]とまで称されたヤモリの王をここまで愛らしいペットに化してしまうとは、
正直驚きを隠せないと同時に、まだまだトッケイに秘められし可能性を感じるではないか。



腹側から見るといかに肥えているかが良く判る。
尾の付け根など、ヒョウモンのそれを上回る太さである。

またこの個体はハンドリング出来るのも然る事ながら、大変太っている。
ぶくぶくであり、肥満といってもいいだろう。
このブリブリと肥えた状態がコンディションとして適当なのかはさて置き、
店に入荷したての黒いガリガリ個体と、同じトッケイだとは俄かに信じられない。
そして、このぶくぶくこそが、ハンドリングのキーを握っているのではないかと思うのだ。

勿論、全てトッケイを太らせたところで、必ず[持てる]ようになる訳ではないだろうが、
動きの緩慢な肥満状態で、接触の機会に馴れると、
個体によっては、このような持てるトッケイに変貌する可能性はありそうだ。
米国の爬虫類の祭典で丸々と肥えたトッケイを肩に乗せ、
「今年はコレが流行る」とお告げのように会場で吹聴伝導していたオヤジがいたと聞いたが、
この話を見ても馴れている個体がブリブリである事が伺える。


こんなに肥っていてもガラス面に張り付ける。
コンディションも良好である。

トッケイの数ある魅力の中で、
必ずしも[従順さ]というものを良しとするかどうかは、それぞれであろうが、
環境や飼育方法に拠ってはこうした個体も出現する可能性がある。
そうでなくとも、ここまで太らせるのは簡単なようで、そう容易くないんである。
トッケイを肥すには膨大な餌が必要であり、逆を言えば、餌代を惜しまず手間ヒマかけないと太らない。
他の生き物の残飯処理という手もあるが、ウズラやピンクを食べさせるのが一苦労な個体もいるのである。

トッケイは育て甲斐のあるヤモリ、という事が判って戴けたであろうか。


いつでも一緒。
こんなファンシーなトッケイが存在したとは・・・・。







【鬼太郎】

【DATA】
身長
:頭〜尻15cm、頭〜尻尾:26cm
体重:不明
性別:♀
産地
:不明
飼育開始:2001年3月16日
主餌
:フタホシコオロギ、時にマウス
ケージ:45×30×45プラケース

遥か昔、印度の破壊神が、この世でもっとも美しい守宮を造った。
神は彼に羽虫を食べる事を命じ、代りに明日を知る力を授けた。
トッケイほど美しいヤモリはいないのではないだろうか。
妖艶なまでに美しい青、深みある臙脂、そして輝く金色の眼、漆黒の瞳、
どれを取っても感嘆に値する。
だが、残念な事に、そんな神代の姿をしているトッケイとは、そうお目にかかれない。
大抵、売り場では黒ずんでたり、黄ばんだり、臙脂の部分が橙色になっていたりして、
その美しさとはかけ離れた実態をして陳列されているのである。
外国から長旅を経て運び込まれたのであるから仕方ないにしても、
斯様なみずぼらしい姿を見て、トッケイの魅力が伝わろうハズがない。

しかし、個体差もあろうが、丁寧に育て上げていけば、その真の姿を味わえる可能もある。
それの証明が、この[鬼太郎]である。


全身均一に綺麗な青と臙脂の発色、黄金色の瞳が美しい。

これが破壊神の加護を受けしヤモリの帝王の真の姿である。
この青の発色、この深みのある臙脂、そして明確なコントラスト、これこそ神代の姿といっても過言ではない。
そもそも、トッケイの体色は個体差あるものの、精神的・肉体的でコンディションに左右されるため、
このように撮影する際にも綺麗な個体というのは珍しい。
比較的小さい頃から飼育で人や環境に馴れているからであろうか。


この皮膚の細やかさと宝石細工のような色艶を見て欲しい!
ここまで美しい個体は、なかなかお目にかかれない。

トッケイの発色については、まだよく判らない事が多いのだが、
個体差、地域差は確かに有って、個体によっては黄ばんでいるもの、色が鮮明にならないもの等がいる。
従って全てのトッケイが、ここまでに美しくなるわけではないのであるが、
ならばこそ、この個体の希少性がご理解戴けよう。
訊くところによれば普通にショップに売られていた個体らしいが・・・。


太ってもいず、痩せてもおらず、見事な体型を誇る。
ブリブリにする事だけが育て上げる事では決してない。

面白いのが、この個体を飼育している環境で、
一般的にトッケイ飼育には広いスペースが必要とされているのに、特大プラケース飼育なのである。
それでいて、この発色とコンディション。唸らざるを得ない。
確かに、例えケージが広くても、このような発色に至らない個体も多く、
トッケイ(その個体)が求める環境要素とは何であるのか考えさせられる。

トッケイは地味な種が多いヤモリの中でも、いや爬虫類全体の中でも格段に派手であり美しい。
その美しさには個体差があるものの、彼等が望む飼育環境を用意した時に初めて拝む事が出来るのである。
それは単に大きなケージや、栄養に富んだ餌を与えれば良い、という訳ではない。
トッケイ飼育の奥の深さが、そこにはあるのである。


“美しき捕食者”
こんなトッケイばかりなら見方もまた変わるであろうに...。






蛇女の亀

〜ヌマヨコクビガメ礼賛〜



メデュサの彫刻  ギリシャ

Introduction

メデュサという名前を耳にされた方は多いかと思います。
ギリシャ神話に登場する怪女の名前で、
これを退治する勇者ぺルセウスの英雄譚はつとに有名です。

そのせいか、様々なファンタジー小説やRPGに、
多くは敵役として登場するので、
今更、説明する必要が霞むほどでありますが、
蛇足ながらに付け加えておきますと、
メデュサはゴルゴンという種族で、
酷く醜悪な顔をし、長い髪の毛はみな蠢く蛇であり、
青銅の腕と、虚空を巡る黄金の翼を持った姿で描かれています。
あんまり醜いので、見た者は全身の血が凍りついて
あっという間に石になってしまう程だといいます。
ギリシャでは今でも歴史的建造物の意匠に
ギョロリとして目玉をムキダシにして、長い舌をダラリと垂らした
どんな猛獣も尻尾を巻いて逃げ出すような
メデュサの顔を見つける事が出来ますが、
なるほど、ひどいブサイクです。
そのブサイクなメデュサはヘスペリスの西の海の果て、死者の国にほど近い、
まぁギリシャ人の世界観からして辺境中の辺境に棲んでいたようです。

一説によりますと、ギリシャ人達はこのメデュサなる怪女をひどく恐れ、
北アフリカに産する毒蛇や毒虫は、メデュサの血から生じたと信じていたそうです。
すなわち、ペルセウスが見事、この怪女の首を刎ね、
天駆ける馬に乗ってギリシャに戻る途中に、
ぶら下げた生首から血がボタボタと地面に落ちて、
その跡からヘビだとかサソリだとかクモだとかが涌いてきた、という訳です。
この説を信ずれば、ショップで見かけるダイオウサソリとか、
なんたらバブーンとか、なんとかアダーとか、なんたらマンバとか、
ジャイアントデスストーカーといった異形の毒蟲毒蛇は、
見てくれそのままに怪物の末裔、という事になりますが、
それはさておき・・・・。

ギリシャ神話における蛇女

多くの神話に表裏があるように、
メデュサにまつわる伝説も、また深い歴史が存在します。
今日伝わる、ギリシャ神話に登場するメデュサに関しては
色々と諸説あるのですが、彼女は生まれついてのバケモノではなく、
むしろ古き神々の血統を持ち、その上、女神と競えるまでに美貌に優れ
見事なブロンドの髪を誇っていたといいます。

ところが、この美しいメデュサが、
一転して二目と見られぬバケモノに成り堕ちたのは、
これまた色々な解釈があるのですが、
有名なのは知恵と戦の女神アテナの神殿で海神ポセイドンと交わいをしたところ、
アテナの怒りに触れてバケモノにされた、というものです。

つまり神聖なる女神の神殿内でふしだらな行為をした罰というのですが、
当時の道徳や習俗は現代とは異なっていますので、
必ずも性行為自体が禁忌であったかどうかは定かではありません。
まぁ、現代の感覚では確かに罰当たりではありますが。

しかしオヴィディウス著の[変身物語]によれば、
確かにメデュサとポセイドンは神殿内で性行為に至ったのではありますが、
その実情は、当時メデュサはまだ男を知らぬ処女であり、
それをポセイドンは無理矢理に押し倒した挙げ句、
猛り狂った脈打つ焔で征服したというのです。
もしそれが本当なら悪いのはブロンド美女を強姦した助平な海神なのですが、
アテナの怒りはすべてメデュサに注がれていますから、
これはどう考えても理不尽なお裁きに思えます。
この仕打ちに「あんまりだ」と訴えたメデュサの姉妹も、
揃ってバケモノにされてますので、情け容赦ありません。

また別の伝説では、自分の金髪にひとかたならぬ自負を抱いていたアテナが、
メデュサの優美な金髪の噂を耳にして、居ても立ってもいられず、
メデュサに[どっちが見事な金髪か]勝負を挑んだとされています。

ところが、挑戦状を叩き付けたアテナの方が敗れてしまい、
結果、プライドを損ね、怒り心頭に達したアテナが、
呪いとも云える神罰をメデュサにあて、
彼女は姉妹諸共バケモノにされたとなっています。

確かに、こういう女性の美を競う勝負において、
敗者に残るのは[劣った]というレッテルですからショックは大きいと思います。
しかしながら、そこで相手を醜くするというのは、
取りも直さず自らが負けを認めている事になり得るのですが・・・。

ともかく、こちらの方が、判り易くはありますが、
いずれにせよ、その仕打ちは理不尽極まりなく、
アテナといえば、大神ゼウスと知恵の女神メティスとの間に生まれ、
知恵と戦争を司り、様々な技術を人々に与えた
ギリシャ神話を代表する偉大な女神サマであるのに、
ことメデュサに関しては、どうも寛大さに欠くきらいがあります。

さて、バケモノにされたメデュサは西海の果てに隠れ住むハメになるのですが、
不幸な彼女を更に追い討ちをかけるのがペルセウスによる討伐です。

ペルセウスはアルゴスの王女とゼウスとの間に生まれ、
すくすくと逞しい若者に育っていたのですが、
総身に知恵が回りかねたのか、頭は然程でもなかったようで、
ある時、アルゴスの王様から、「結婚祝に馬を進呈しろ」と云われ、
「メデュサの首であろうとも献上致します」と調子の良い返事をしてしまいます。

その発言により、本当にメデュサ狩りに行かされてしまう馬鹿なペルセウスですが、
そこに、あのアテナ神が現れ、ありとあらゆる神々のグッズと情報を
ペルセウスに貸し与えます。
ご丁寧にも、首を掻っ切るカマや、
その刎ねた首を入れる袋まで用意するなど、
アテナの周到振りには驚かされます。
何がそんなに気に食わないのか、或いはシャクに触るのか、
ともかくメデュサをバケモノにし、破滅に追い込んでも、
依然、腹の虫が納まらなかったようです。

別の伝説では、ぺルセウスにメデュサ狩りを命じたのは、
アルゴスの王様ではなく、アテナ自身になっています。
メデュサに向ける彼女の憎悪からすると、
こっちの方がまどろっこしくなくてスンナリしてます。

また幾つかの物語にはペルセウスがメデュサの棲家へ向った時、
どういう訳か、メデュサはアテナに醜くされる以前の絶世の美貌のままで、
首を狩ろうとするペルセウスも、その美しさに心惹かれて
流石にその手を躊躇させるくだりがありますが、
堕天してもなお、美しいメデュサに、
アテナが「なんてしぶとい、こうなったら殺してしまおう」と思ったのかも知れません。
女性というのは、兎角、恐ろしい。

さて、首尾良くメデュサの首を掻き切ったペルセウスは、
追ってくる彼女の姉妹からまんまと逃げおおせて、
ぼとぼとと、袋から滲み出る血を大地に滴しながら(蛇蝎の類いを生み出しながら)
一路ギリシャへと戻ります。

その途中、怪物への人身御供にされている好みの美少女を見付けるや否や、
今だ鮮血程走るメデュサの首を利用して、ちゃっかり嫁さんにしたり、
自分に無理難題をふっかけた(しかし事の発端は自分の口滑り)
アルゴス王を石にしてしまったりと、まさにやりたい放題。
散々首を振りかざしたのち、ペルセウスはアテナにメデュサの首を献上し、
アテナは自分の胸当てに首をはめ込んで
これまた彼女の敵を片っ端から石にするなど、使い倒したとされています。

という事は、頭の弱い若者を勇者に仕立て上げて、
理不尽な殺しを犯させたわけですから、
ペルセウスはアテナにとって手を汚す事なく、
怨敵を亡き者にするのに都合の良いコマに過ぎなかったのかも知れません。
仮にも父親は同じな異母姉弟の間柄なのですが、
そこらへんは冷酷なまでにシビアです。

余談ですが、昨今、派遣する、しないで議論を醸している、
日本が所有するイージス艦(護衛艦:金剛など)ですが、
このイージス艦のイージスは、
アテナがメデュサの首をはめ込んだ山羊の皮楯アイギス(Aigis) に由来します。
イージス艦は人工衛星を用いた優れた情報処理機能(イージスシステム)を有し、
[100発ミサイルを打ち込まれても悉く打ち落とせる]防衛力を誇りますので、
この無敵の神器の名前を付けたのでしょう。

歴史における蛇女

さてさて、酷い解釈も含みましたものの、
今日伝わるメデュサの伝説はこのようなものなのですが、
冒頭に申しました通り、メデュサもまた深い歴史を有する存在です。
歴史的な見地からすれば、
メデュサやアテナはギリシャに文明が栄える遥か以前に、
北アフリカで信仰されていた女神サマで、
森羅万象・あらゆる知恵と永遠と真理を司っていた、
いわば世界と同義ぐらいの偉大な存在だったようです。

彼女の姿はその当時から腕や頭に蛇を纏わらせており、
これは蛇が古代社会において、
永遠や知恵のシンボライズであった事からでありましょう。
後年、ギリシャ神話での醜い蛇女としてのメデュサを見ることで、
蛇に対する信仰が薄れ、
次第に醜悪なる代名詞に成り堕ちた経過が理解出来ます。

自然が優しさと激しさを内包するように、
相反する性質を備える神様を幾つかの人格に分ける事で、
或いは別々の神様を習合する事で、
信仰を広めようとするのは世界中で見られる文化でありますが、
メデュサもまた、偉大な女神の、厳しい一面でありました。
地方によって異なりますが、アテナ・メティス・メデュサの三女神をもって、
あらゆる知恵と永遠と真理とする、という信仰形態だったようです。

ギリシャにメデュサ信仰が伝播したのはリビアからのようで、
当時は盛んに神殿が建てられたようですが、
紀元前6世紀頃からギリシャ社会も父権制となり、
母なる大地の女神から天空の男神へと信仰の対象がシフトした結果、
彼女の信仰は断絶してしまいます。

一方、アテナという女神を、ギリシャのアテナイ人は守護神とし、
アテナ・メティス・メデュサの三女神というリビアの形態を分解して
新しい信仰形態に置き換えたようです。
結果、アテナはアテナイ人を守護する大神ゼウスの忠実なる娘神、
メティスは彼女の母親に、メデュサは不倶戴天の敵に、
それぞれ生まれ変りました。

こうして、アテナはメティスとゼウスの子、となりましたが、
ギリシャ神話では、メティスは最も偉大な知恵の女神であり、
この女神を力づくで組み伏せたゼウスは、
かつて自分の父親が我が子に殺されるのを恐れて始末して回ったの同様、
自らの地位を守るべく、アテナを宿したメティスごと飲み込んだとされています。

現在でいうなら婦女暴行・殺人・死体遺棄という重罪なのですが、
それはともかく、これによりゼウスは
メティスの持つ偉大な知識と、古い神々の系統を我が物とし、
絶大なる力を手に入れたとされています。
これが伝えんとするのは、申すまでもなく、
古い信仰が新たな信仰に支配されるメタファーでありましょう。

そのゼウスの頭をザックリ割って生まれ出たアテナは、
古より続くリビアからの血統を絶ち切り、
ギリシャ人にとっての女神(信仰の対象)となるわけですが、
生まれ変ったアテナ(新信仰)にとって、
自らの古き因縁であるメデュサ(旧信仰)は、
滅せねばならない相手であったのでしょう。

結果、アテナは言いがかりを付けて、メデュサを醜いバケモノに変えたり、
ペルセウスを唆して首を刎ねてたりしてますが、
このアテナの近親憎悪とも云うべき行動は、
決して女神の気紛れや苛立ちなのではなく、
むしろ新しい信仰が成立する為の避けられない儀式であり、
メデュサはその生け贄であった、という解釈も可能だと思えます。

従って、その首を自らの一部としてしまう行為も、
単純に武器としての[石化光線発射兵器]としての活用ではなく、
メデュサ(旧信仰)を葬り、
自らに取込んだ事の最終的な宣言であったと言えるでしょう。
かくして遥か昔に一体であった三女神は、
母と娘、そして敵という歪な形で、再び一体化を果すのです。
その過程で様々なエピソードを残し、過去を隠蔽しながら。

蛇女の亀(本題)

この様な数奇な運命を辿ったメデュサの、
名を冠する亀がいるのをご存知でしょうか。
その名はヌマヨコクビガメ。
サハラ砂漠より南のアフリカ大陸、マダガスカル、
アラビア半島の一部にも棲息する中型淡水亀です。

こう書くと、少しでも水亀に明るい爬虫類飼育者からは
「あぁ、pelomedusa subrufaのコトね」と返ってくるかも知れません。
ヌマヨコクビガメの属名は[pelomedusa(ペロメデューサ)]といい、
ギリシャ語のpelos(ペロス・暗色)とmedusa(メデュサ)を組み合わせたもので、
1788年にフランスの博物学者ラセペードによって命名されました。

確かにヌマヨコクビガメは暗褐色なものが多いのですが、
何ゆえメデュサの名前が付けられたでしょうか不思議です。
なぜなら、このヌマヨコクビガメは、見た事ある方ならご存知でしょうが、
実に間の抜けた、漫画に出てくるタヌキのような顔をしており、
身体も丸っこく、動作も性質も愛敬があって、
とてもギリシャ人が恐れた蛇の怪女メデュサを
連想するとは思えないのです。

私は、ヨコクビというぐらいなので若干首は長く、蛇のように見えるから、とか
その棲息域からして(サハラ砂漠はリビアより南ですが)、
この亀もまた滴り落ちたメデュサの無念の血より生じた、とされたのでは

と思っていたのですが、書籍に拠りますれば、
彼等が棲息している沼や池に水鳥が羽を安めに降りたちますと、
水面下で一斉に、この亀達が集まってきて、
水鳥の脚を噛み付くやいなや、寄ってたかって水中に引き摺り込み、
集団でズタズタに貪り食ってしまうそうです。

私は実際にその光景を眼にした訳ではありませんけれども、
こんな腑抜けのタヌキみたいな亀が、
そのような凄まじい生態を有すとは、とても信じられません。
ですが、どうやら本当のようで、
この辺りの習性からメデュサの名を頂戴したのでしょうか。

さて、その謎多きヌマヨコクビガメですが、
飼育種としては一般的な水亀と同じで、
性質は丈夫で物怖じせず、なんでも食べるというエリートです。
ヨコクビの通り、首を横にたたむ曲頚亜目の亀なので、
「なんぞ妙なカメが飼いたい」という方にもお勧めできます。

甲長20〜30cmと若干、大きくなるのですが、
大きい亀が餌を欲しがってジタバタする姿は楽しいでしょうし、迫力もあります。
窓際に置いたり、夏の間はベランダに出すという工夫で、
紫外線なども解決するのでスペース以外で苦にはならないでしょう。
とにかく、性質がミドリガメより遥かに逞しいので、
餌をねだって愛敬を振りまく(ように見える)仕草は、
爬虫類飼育に興味のない人からも受けが良いのではないでしょうか。

なにより、手元でじっくり観察しながら、
ラセペードが
如何なる訳で数奇な女神の名を命名したのか、
その理由を考察するのも悪くない時間の過ごし方と思うのですが・・・。

水のメデュサ アフリカヌマヨコクビガメ
〜メデュサ?〜






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